要旨

「オーストリアのロマに見られる想起の媒体についての検討 ―調査報告を中心に」

滝口幸子(城西国際大学)


 本報告では、音楽における想起をめぐる議論を踏まえて、オーストリアに居住するロマが自身の民族的アイデンティティを想起する媒体について、2018年度の現地調査の成果から検討した。

 ロマは、社会・文化的、言語的、歴史的な発展のプロセスを経た多様なグループから構成されたマイノリティであり、オーストリアで確認されている主要なサブグループは6つである。本報告では、まず、6つのサブグループの共通点と相違点、1980年代から、国内活発化した民族運動、それらに起因するサブグループ間の社会的・政治的地位から生じた彼らの民族アイデンティティをめぐる諸問題について、先行研究及び自身のフィールド調査から紹介した。

 それらを踏まえて、2018年のフィールド調査(ウィーン、ブルゲンラント州)で報告者が特に注目したロマの音楽活動を取り上げ、アサダ(2018)『想起の音楽:表現・記憶・コミュニティ』の音楽実践を通した「想起」についての議論を参考に、想起の発動装置としての音楽の役割について検討した。

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